ダンボールメーカーである三浜紙器様の事務所棟、かなり古い状況で壁に書かれた文字もほぼ消えて外壁も汚れてしまっていました。 そのような状況で元々おつきあいのあった南川社長より「文字がカバーできるようなパネルの看板でも取り付けたらどうだろうか?」というご相談をいただきました。
創業半世紀ということで、改めて過去から現在における事業主様の取り組みやビジョンに耳を傾けた結果、その魅力が外装に全く現れていないと感じました。リサイクル事業や授産施設事業など社会への愛、そして地元密着の対応力、梱包材の斬新な企画設計など変化しながら半世紀続く理由と魅力が明確に存在しました。それをもとに不易流行というテーマをあげてその基本機能と付加価値をわかりやすく表現すべく建物をまるごとダンボールに見立てるという直球デザインにてご提案をいたしました。
細かなサービスを象徴するように一番視認性の低い側面部分にはあえて手のかかるダンボールの断面の模様を配置しています。既存の外壁材はV字に凹んだのスパンドレルでした。パネルを取り付けたりシールを貼ったりする方法もありますが、既存形状を生かして自然な風合いを出すために塗装後に手書きで描画することにいたしました。どの職人が行っても早く正確に描けるようにあらかじめ抜き型を制作し、マグネットで固定して筆を入れるという方法を採用いたしました。
メインとなる裏面には社名や営業方針の項目をダンボール印刷に見立てて表にしています。赤札の文字には「迅速・確実・丁寧」という創業以来続く方針をご要望いただきました。屋根部分も手を抜くことなく、既存の凹凸を生かして波模様を入れています。点線に関しては、本物のダンボールには通常ありませんが、折り曲げ線のイメージが伝わりやすいので黒いラインを採用しています。バーコードには電話番号を記載するなどして親しみやすさも考慮しました。窓ガラスには透過性のあるフィルム、サッシには塗装では剥がれやすいため密着材を塗った後にフィルムを貼っています。
イメージを忠実に実現できるよう塗料の色とフィルムの色を合わせるために何度もサンプルを制作しました。裏面の外壁には幅1cm程凹んだ目地があったため、その中と厚み部分には地道に色を入れることには多くの時間がかかりましたが必要なことでした。架設足場からベースの塗装、模様と文字書きで約2週間程で完成いたしました。
本プロジェクトは反響が大きく、グッドデザイン賞はじめ、サインデザインのSDA賞、空間デザインのDSA賞、建築デザインのJCDアワードにおいて受賞することができました。また広告デザインのADC賞でもノミネートされ、メジャーなTVCM等と並んで銀座ギャラリーにて展示回覧いただけました。
三浜紙器様の本質的に魅力があふれていたからこそ、実現できた企画でした。最近はデジタルサイネージや印刷ばかりになり、手書きでここまで施工する業者は少ないですがデザインした弊社自身で施工できるからこそ、コストも抑えてスムースに企画施工するに至りました。採用をご決断いただいた南川社長、そして協力いただいた職人の皆様に心より感謝申し上げます。弊社自体も「不易流行」今後も継承したアナログ技術を磨きながら、新しい組合せにてお客様の魅力を表現できるよう探求していきたいと思います。