名古屋で数々の飲食店を経営されているイデックス様の店舗設計をされているデザイナー様からご相談を賜りました。既設の他店で設置されているアンティーク鉄扉のレプリカを製作いたしました。
既設のものは実際に輸入されたものですが、同様のデザインにてさらに大きなサイズに設計しなおし、今回の club W 開店に向けてビルの顔になるべく、鉄でゼロから製作するプロジェクトでした。過去に製作実績はありませんでしたが、社内で鉄骨加工ができることと仕上げとなるエイジングのセンスを信頼いただいてのご相談でした。
まずは既設の鉄扉を採寸や分析し、どの部分を鋳造にするかなど仕様設計をいたしました。本物は5連のリング部分も鋳物になっていましたが、その部分はルーター加工や溶接を組み合わせれば予算が抑えられるとわかりましたので円盤部分と四角の文様部分のみ鋳造品にしています。左上の写真は現地で枠をはめてシリコンでかたどりを行っている様子です。
1日置いてから方をはずし工場に持ち帰り、樹脂で原型を製作しました。立面でのかたどりということもあって細部までうまくいかなかった箇所がありましたので、彫刻等などで修正して仕上げた上で、その原型を鋳物業者様にお渡しし鉄の鋳造をご協力いただきました。鉄の鋳造には木型にはめた原型の周りに専用の砂を固めてメス型を作り、熱く鋳した鉄を流し込み、固まったあとに砂型を崩して取り出します。
鋳物部分以外は鉄板やパイプなどを使用して当社内で溶接しながら組み立てていきました。 どこにどんな材料を使用するという構造設計にも時間がかかりましたが、それ以上に加工は加工で 溶接は熱でゆがむため、どの部分から製作していくかなど慎重に検討して進めていきました。
また、弊社は鍛冶専門でないこともあり天井クレーンなどの設備もなく場所も狭いので、専用の吊架台や台車から製作し1枚完成後は屋外に運び出すという手間もありました。円盤1枚も二人では持てない重量で、扉全体は完成すると1枚あたり1トンになる重量になります。裏返すにも運ぶにも大変なことでしたが担当した職人さんの苦労の甲斐あり計画通りのものに仕上がりました。
仕上げのエイジング塗装は色々な方法を試行しながら進めていきました。錆はもとより、塗料は何度も塗られた上ではがれかけている表情など細かな点にも配慮して手を何層にも私手を加えていきました。現地施工は建築業者さんが建物の構造体から手を加えて施工されました。完成後、ご相談いただいた店舗デザイナー様及びお施主様にも大変ご満足いただけたことがで何よりです。
鋳造やその他技術的にも学びの多くありましたが、このような大きく重量があるものでももう少しスマートに製作できるように近年中には工場のお引越しを考え始めることにもなりました。そして鉄は一般的に構造で使用されることが多いですが、加工の柔軟性もあり、素材としての魅力もあるため、意匠的にまだまだ採用できる気づきも得ることができ、非常にやりがいの大きなプロジェクトとなりました。